「ご主人、ドクターがお呼びです。」心に鬼を 魂に炎を キレイごとだけでは語れない親子の人生。人は闇に落ちてしまうのか?(その5)

心に鬼を 魂に炎を (その5)

キレイごとだけでは語れない親子の人生。人は闇に落ちてしまうのか?

鬼岩 正和(おにいわ まさかず)

「医者が嫌いだったからね。何かというと金儲けのために、って言ってたしね。」

「それで、医者のいないところ、自宅などで死んだ場合は、基本的にはかかりつけの医者に連絡することになっているんだけど、じいさんの場合はかかりつけ医がいないから救急車を呼んだんだよね。死んでるのが明らかなら警察に連絡するんだけど、医者じゃないから死んでるかどうかわからないし、万が一ってこともあるからね。」

「確かに、救急車を呼んだからこうやって病院に来たんでしょう?」

「そうだね。でも、救急車には遺体を乗せないって知ってる?」

「なんか、聞いたことがあるような気がする。縁起が悪いからって」

「そういうことじゃないけど。決まりだからね。」

「でも、おじいさんは救急車に乗せてくれたよね。」

「それは、明らかに死亡している場合は救急車に乗せられないということで、今回はそれに該当しない、心肺停止状態の人ということだね。」

「なんだかよくわからないけど、それでどうして警察が来るの?」

「例えば、病院に入院していればどうして死んだのかわかるよね。お医者さんが毎日のように見てくれているんだから。でも、医者にかかってない人が突然死んだ時にはどうなの?死因とかわかる?例えばおじいさんとかは?」

「そうね、老衰とか?」

「でも、他人が見て老衰死だと簡単には判断できないよね。毎日見ていた自分たちだって、昨日や今朝の状態から老衰だとは思わないでしょう。」

「う~ん、それじゃ何?」

「わからないからそれを調べる。医者がいつも見てくれていたらお医者さんが判断してくれるけど、そういうお医者さんがいなければどうする?」

「え?解剖して調べるの?」

「どうかな?今回の場合はどうするのか、それをこれから警察が判断するんじゃないのかな。」

 

そんな話しをしているところに、先ほどの事務の人が呼びに来た。

「ご主人、ドクターがお呼びです。」