首つり自殺と断定されたが、あの時は明らかに死んでいると言い難い状況だった。心に鬼を 魂に炎を キレイごとだけでは語れない親子の人生。人は闇に落ちてしまうのか?(その8)
心に鬼を 魂に炎を (その8)
キレイごとだけでは語れない親子の人生。人は闇に落ちてしまうのか?
あの時の聴取も長かったな、携帯も繋がりにくいところだったから通報が遅くなったのも原因なのはわかっているが、犯人扱いされたと言っても仕方ないくらいだったな。
鬼岩 正和(おにいわ まさかず)
「ご主人、警備会社は5年ほど前までいらっしゃいました? 本部で事情聴取されたこともあるようですね。」
「え?あの事件のことですか?家の者には何も言っていないのですが。心配されると嫌なので。」
あの事件。首つり自殺と断定されたが、あの時は明らかに死んでいると言い難い状況だった。足先が小刻みに痙攣しているようにも見えたし・・・
あの時の聴取も長かったな、携帯も繋がりにくいところだったから通報が遅くなったのも原因なのはわかっているが、犯人扱いされたと言っても仕方ないくらいだったな。
「ご主人、あの時の方だと知っていたらもっと簡単に済ませましたのに」
「え?どういうことですか?」
「あの時、私もいたんですよ。下っ端でしたが。ですから、なんとなく見覚えがあったんですよね。それで調べさせたんです。」
「でも、あの時の事件とは関係がないでしょう?」
「そうなんですけどね。ただ、こういったことでは人間性を調べるのが一番重要なんですよ。事件性の判断の場合は。」
「ということは、私は多少とも信用されているということですか?」
「田中さんの性格、真面目さ、頑固さ。そういうことは承知しています。」
「頑固・・・ですか?」
「あの時は、確か7日間でしたよね。首つり死体の発見者に対する取り調べとしては異例の長さでしたから。その間、毅然とされていましたから。」
「まぁ悪いことをした覚えはありませんし、こちらが発見して通報してあげたのですから。実はそれ以前にも盗難車両を発見して通報したことがあって、その時も窃盗犯と疑われたことがありまして。犯人面をしているのかな?」
「そうでしたか、いろいろとご経験をされているのですね。警察の落ち度もあるでしょうがご勘弁ください。それで、今回の件ですが調書を作るのにもう少しお聞きしてもよろしいですか?」
「かまいませんよ。長くなるのは覚悟していましたから。」