北欧神話入門 北欧神話の魅力を知りたいすべての人へ贈る入門書。北欧研究の泰斗が「はじめての人にもわかりやすく」をテーマに遺した遺稿を、日本アイスランド学会監修のもと書籍化。

2024年11月1日

本書は1984年に出版された『北欧神話』(東京書籍刊)をより読みやすく改訂したものです。著者である菅原邦城先生が大阪外国語大学を定年退職後、精力的に改訂版の執筆に取りかかられ、2019年2月に帰らぬ人となられるまでに終章(未完)を残すばかりの段階まで完成していました。同年5月、お世話になった卒業生による偲ぶ会が盛大に開催された後、大阪大学外国語学部の田辺欧教授より本書原稿(遺稿)があることをお聞きしていたもののなかなか動き出せずにいましたが、ようやく2022年になり、年賀状のやりとりをさせていただいていた菅原先生の奥様から連絡をいただき遺稿のデータを受け取りました。個人としては何も出来なかったのですが、菅原先生が設立メンバーのお一人でもあった日本アイスランド学会に協力を依頼したところ、運良く1984年版の『北欧神話』を出版した東京書籍につながることが出来ました。また非常に奇遇なことに1984年版出版当時の東京書籍の編集担当であった倉嶋雅人氏にも協力をお願いできることとなり、今回本書の出版を実現することが出来ました。1984年版は今現在でも日本における北欧神話研究の第一線で十分通用するものですが、それをもとに改訂された本書は、より読みやすい文体と日本アイスランド学会会員監修による図版等の挿入や補筆により日本における北欧神話研究の裾野を広げるものとなっています。

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本書のオリジナル原稿は、序章から終章までの7章構成となっています。終章はメモ書きしかなく、菅原先生はここで本格的な比較神話論の展開を構想されていたようです。ただし本文は前作『北欧神話』(東京書籍刊)の改訂版となるべく完全にまとまっていたため、こうして上梓の運びとなりました。

菅原先生が執筆にあたり、ご自身に課した注意点のメモの中に「読者に予備知識を求めない記述を心がける」と書かれていました。その趣旨はよく理解・賛同できるのですが、これが結構難しいのです。なぜなら、北欧神話のテキストにはさまざまなヴァリエーションがあり、同じ物語なのに他のテキストでは出来事のディテールが異なる、同一人物の名前が変わる、個々の物語が入れ子状態になったり別の物語に派生したりするなど全体像がとらえにくい、物語の時間が過去・現在・未来と直線的に進まないなど、初めての読者には内容を理解することが非常に困難だからです。そこで、他の著者・訳者のお仕事や、欧文記事などを参考にして、言葉や説明を足し、表現を一部書き改めています。また、原典の詩(韻文)からの引用・翻訳が多いことが本書の特徴です。長めの引用もあり、各テーマに応じて同じ内容のストーリーが繰り返して引用されている個所もあります。ときに煩雑に思われるかもしれませんが、この繰り返しこそが先生の望まれた「神話の語り」の再現であろうと推察して割愛せずに掲載しました。

北欧神話の世界観は独特であり、その構造を把握することが困難なため、北欧研究の権威である日本アイスランド学会様に監修を仰ぎ、編集部には新たな説明図を作成していただき、視覚資料も多めに掲載するように心がけました。菅原先生のご遺族と東京書籍の橋渡しをしていただいた堀井祐介先生、堀井先生の働きかけでご協力いただけることになりました伊藤尽先生、松本涼先生、また東京書籍のスタッフの方々に深く感謝申 し上げます。どうか天国の菅原先生に喜んでいただけますように。